特定技能と技能実習、これら2つの制度は名称が似ているうえに共通点も多く、違いがわかりにくいです。そのため、外国人の受け入れを検討する際には、どちらの在留資格を活用すべきなのか悩んでしまうケースが多く見られます。
そこで今回は、外国人採用を検討している事業者様に向けて、特定技能と技能実習の違いについてわかりやすくご紹介します。
本記事をお読みいただければ、両制度の相違点を把握でき、今後の外国人受け入れにあたって制度選びに役立てることが可能ですので、ぜひご参考ください。
目次
特定技能と技能実習の違い
まずは、特定技能と技能実習それぞれの制度の定義を確認し、その違いを把握しておきましょう。
特定技能とは
特定技能とは、国内人材の確保が難しい状況に置かれている産業分野において、一定の専門性や技能を持った外国人を受け入れることを目的とする制度です。
2018年に可決・成立した改正出入国管理法によって創設され、2019年4月から受入れが認められています。
在留資格「特定技能」には、以下の2種類が存在します。
- 特定技能1号:特定産業分野に属する相当程度の知識もしくは経験が求められる技能を要する業務に従事する外国人のための在留資格
- 特定技能2号:特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人のための在留資格
技能実習とは
技能実習とは、1960年代後半頃から海外の現地法人などの社員教育として行われていた研修制度が評価され、これを原型として1993年に制度化されたものです。
技能実習制度では、外国人の技能実習生が日本の企業や個人事業主等の実習実施者と雇用関係を締結し、出身国で修得が難しい技能等の修得・習熟・熟達を図ります。期間は最長5年間で、技能等の修得は技能実習計画にもとづいて行われます。
技能実習制度の区分は、日本への入国後1年目の技能等を修得する活動(第1号技能実習)、2〜3年目の技能等に習熟するための活動(第2号技能実習)、4〜5年目の技能等に熟達する活動(第3号技能実習)の3つに分類されています。
特定技能と技能実習の特徴を比較
それぞれの定義を把握したところで、ここからは特定技能と技能実習の特徴を9つの観点から比較します。
1. 制度の目的
前述のとおり、特定技能の目的は、国内人材の確保が難しい状況に置かれている産業分野において、一定の専門性や技能を有する外国人を受け入れることです。
他方、技能実習制度では、開発途上国出身の外国人の方に日本の技術を現場における実習を通じて習得してもらい、帰国後に培った技術を広めてもらうといった国際貢献が目的に掲げられています。
2. 法的根拠
特定技能制度の法的根拠は、2018(平成30)年12月に成立・公布された「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」です。この改正法によって、在留資格「特定技能1号」「特定技能2号」が創設されました。
これに対して、技能実習制度は、1993(平成5)年より開始されていたものの、2017(平成29)年に「技能実習法(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律)」が施行されました。この法律では、技能実習生を保護し、本来の目的に沿った活動を実施できることが目的とされています。
技能実習法が制定される以前、本来の技能実習制度の目的から逸脱した過酷な労働を強いている状況が目立っていました。こうした状況を受けて、技能実習法には「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」旨が明記されています。
3. 就業可能な作業内容と分野
特定技能と技能実習では、就業できる作業内容と分野に違いが見られます。そのため、特定技能もしくは技能実習の在留資格で外国人を雇用する際は、企業・事業所が上述の対象分野に該当していないかあらかじめチェックしておきましょう。
まず、特定技能制度の対象分野は下記になります。
- 介護
- ビルクリーニング
- 素形材産業
- 産業機械製造業
- 電気・電子情報関連産業
- 建設
- 造船・舶用工業
- 自動車整備
- 航空
- 宿泊
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
※上記のうち、下線が引かれた分野のみ、特定技能2号は対象としている
次に、技能実習制度において、「技能実習1号」の場合は、分野や業種などの制限なく受け入れられます(同一作業の反復のみで修得できるものでなく、制度の目的である開発途上地域等への技能移転や経済発展に寄与する技能であることが条件)。
ただし、1年目に修得した技能を更に習熟させることを考慮すると、次の段階である技能実習2号を視野に入れなければなりません。技能実習2号に移行する場合、技能実習1号から移行できる職種・作業が決められています。
以上のことから、技能実習を受入れられている企業・事業所等のほとんどが技能実習2号の対象となる職種や「作業を見据えて技能実習生を受入れているのが現状です。
技能実習2号の対象職種は、以下のとおりです(2022年4月25日時点)。
- 農業関係(2職種6作業)
- 漁業関係(2職種10作業)
- 建設関係(22職種33作業)
- 食品製造関係(11職種18作業)
- 繊維・衣服関係(13職種22作業)
- 機械・金属関係(15職種29作業)
- その他(20職種37作業)
職種・作業内容について、詳細は厚生労働省のWebサイトでご確認ください。
厚生労働省「技能実習制度 移行対象職種・作業一覧(86職種158作業)」
4. 在留可能な期間
特定技能の場合、「特定技能1号」は在留期間を更新できれば最長5年間、特定技能2号は在留期限を更新し続けられれば無期限で日本に滞在できます。
これに対して、技能実習生は在留期間を更新できれば最長5年間、日本に滞在できます。
5. 転職できるかどうか
特定技能は就労資格であるため、「同一分野」であるうえに「転職先の分野に該当する技能評価試験に合格+日本語能力試験4級以上(※介護はこれ以外にも条件あり)」を満たしていれば転職できます。
これに対して、技能実習の場合、在留の目的が就労ではなく実習であることから、転職自体が想定されていません。所属先企業の都合で他企業に移籍する、もしくは技能実習2号から3号への移行タイミングでのみ転職できます。
6. 家族滞在が認められるかどうか
日本で働く外国人にとって、家族を帯同できることは、長期的に働くうえで重要なポイントです。一緒に暮らすことが認められれば日本で長く働くきっかけになる一方で、それが認められない場合、母国に家族を残しているために帰国の選択肢を取らざるを得ないケースが多いです。
特定技能では、1号は基本的に認められていないものの、2号であれば配偶者とその子どもに滞在が認められています。これに対して、技能実習の場合、帰国が前提となるため、家族帯同は不可能です。
7. 就労前後の関係者数
特定技能の場合、原則として企業と外国人本人のみが就労前後の関係者となります。
これに対して、技能実習の場合、監理団体・技能実習機構・送出機関など、企業と実習生の間に入る関係者が多い点が特徴的です。
8. 受け入れ方法
特定技能制度では、即戦力の人材として受け入れることが想定されます。日本人と同様に労働法関係の法律が適用されるため、求人求職ルートに制限はなく、受け入れ企業が自ら直接採用することが認められています。
これに対して、技能実習制度では、そのほとんど(98.6%)が団体監理型で受け入れを行っています。団体監理型の場合、海外の送り出し機関と提携関係を有する監理団体から実習生の紹介を受けて雇用することが求められます。
9. 受け入れ人数に制限があるかどうか
特定技能の場合、基本的に受け入れ人数に制限がありません(介護・建設分野に限り、制限が設けられている)。
これに対して、技能実習の場合、適切な指導を行えるよう、受け入れ人数に制限が設けられています。詳しくは、以下のWebサイトでご確認ください。
参考:公益財団法人 国際人材協力機構「外国人技能実習制度とは」
特定技能と技能実習の利点・注意点
ここまでの解説を踏まえて、本章では2つの制度を活用するにあたって把握しておきたい代表的な利点と注意点を解説します。
特定技能の利点
特定技能の外国人を採用する主なメリットは、以下のとおりです。
- 日本語能力が担保されている
- 即戦力を採用できる
- 国内外から広く採用でき、人材不足を解消できる
- フルタイムでの労働が可能
- 国際的な職場環境づくりにつながる
- 短期間での離職リスクは少なく長く働いてもらえる
とりわけ日本語能力が担保されている点は大きな利点です。特定技能資格を得るためには、日本語能力試験に合格することが求められています。
業務や生活上で必要な日本語などは追加で学習してもらう必要が出てくるケースが多いですが、すでに一定以上の基礎的日本語能力を持っていることから、外国人との基本的なコミュニケーションが可能です。
また、外国人が特定技能資格を得るには、相当程度の知識または経験が必要とされており、技能実習2号の修了もしくは技能試験に合格することが求められています。そのため、働く業界の業務について、すでに一定以上の知識を持った外国人を採用することが可能です。
言語や文化の違いを乗り越えられれば、すでに一定以上の知識を持った外国人を採用することで、研修コストの抑制につながります。
特定技能の注意点
特定技能の外国人を採用するにあたって、問題となりやすい注意点は以下のとおりです。
- 複雑な手続きが求められる
- 現時点で海外での試験実施が限定的であり、技能実習よりも候補者の確保が困難
- 早期退職の可能性がある
- 企業都合での解雇ができなくなる
- 人材紹介料が高め
とりわけ手続きの煩雑さが注意点として挙げられます。特定技能の外国人を採用する場合、出入国在留管理庁への申請だけでなく、分野によっては受け入れる外国人の母国機関とのやり取りも求められます。
人材紹介サービスを利用する場合、当然手数料がかかります。外国人の年収の2~3割程度が大まかな相場とされており、採用にあたって多くの費用がかかる可能性が高いです。
以上の点を踏まえると、特定技能の外国人の採用が向いている企業の特徴は以下のとおりです。
- 現場の人手不足が事業成長を阻害している
- 若くてやる気のある人材と仕事がしたい
- 人材を大量に採用したい
- 国籍関係なく人柄で採用したい
技能実習の利点
技能実習の外国人を採用する主なメリットは、以下のとおりです。
- 志の高い若者の受け入れにより企業の活性化につなげられる
- 作業マニュアルの確立・見直しを図れる
- 国際貢献・海外への事業展開の足がかり
外国人技能実習生は母国および家族のために技術を習得するという高い志を持っており、非常に熱心で意欲的な若者が多く、企業として大幅な効率UPにつながります。既存社員をはじめパート・アルバイト社員にも良い刺激を与え、職場全体が活性化し企業利益に貢献するでしょう。
また、技能実習生の受け入れにあたって、社内にさまざまなルール化・作業手順のマニュアル化が求められます。この見直しによって技能実習生への対応だけではなく、従来の社員の中でも仕事の効率化が望めるでしょう。社内全体に教える・共有する・協力するといった企業文化が育まれ、社内全体の仕事に対する意識のレベルアップが見込まれます。
技能実習の注意点
技能実習の外国人を採用するにあたって、問題となりやすい注意点は以下のとおりです。
- 導入当初はコミュニケーションが困難
- コンプライアンスをより厳格化する必要
技能実習生は入国前後において日本語の勉強をしてくることが想定されるものの、導入当初はどうしてもコミュニケーションが困難になりがちです。とはいえ、若く勉強熱心な方が多く、習得が早いと思われます。積極的に話しかけるなどして、日本語能力の向上を応援してあげるとよいでしょう。
また、社内規則・業務マニュアルの見直しにあたって、翻訳版を作ったり、なにげない暗黙のルールであっても言語化・明文化が求められたりするなど、手間が生じるおそれがあります。
以上の点を踏まえると、技能実習の外国人の採用が向いている企業の特徴は以下のとおりです。
- 従事する業務がある程度限定的であっても問題がない
- 会社への慣れ(作業・空気感・環境)が必要で、長期の雇用を念頭に置いている
技能実習から特定技能に移行する方法
技能実習生から特定技能への切り替えは可能ですが、すべての技能実習生が無条件に移行できるわけではありません。
まず、技能実習から特定技能への移行に必要とされる主な要件は、以下のとおりです。
- 技能実習2号を良好に修了している
- 技能実習での職種・作業内容と特定技能1号の職種が一致している
ここからは、技能実習生から特定技能への切り替え手続きの方法を解説します。
移行の申請・書類提出先は、地方出入国在留管理局です。地方出入国在留管理局に出向いて、提出する書類をもとに審査が進められます。審査にかかる期間は、約1~2ヶ月です。
この審査に通過すると、特定技能1号での在留資格認定証明書が発行されます( そのほか、それぞれの国籍国での手続きが求められることがあります)。
特定技能と技能実習のどちらで受け入れるべきなのか?
最後に、特定技能と技能実習のどちらで受け入れるべきなのかは、雇用を検討している職種によって変わります。この際の判断に役立つ情報を下表にまとめました。
ケース | 職種の例 |
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特定技能でしか外国人を採用できない職種 | 外食業(飲食業)、建設の一部(吹付ウレタン断熱工事等作業及び関連工事作業に従事する吹付ウレタン断熱と水際線域など)、食品製造の一部(製麺製造業、菓子製造業など) |
特定技能で外国人を採用したほうがよいと考えられる職種(技能実習で雇用すると法令違反になるおそれがある) | 現場作業であり多能工を必要とする場合または技能実習で定められた必須作業が50%未満の場合、現場作業であり技能実習で定められた設備や要件が備わっていない場合など |
技能実習でしか外国人を採用できない職種 | 建築関係(例:さく井、冷凍空気調和機器施工など)、繊維・衣服関係(例:紡績運転、織布運転など)、その他職種(例:家具製作、印刷など) |
特定技能と技能実習のどちらで受け入れるかについて、ご不明な点がございましたら、しらき行政書士事務所までお気軽にご相談ください。初回相談は無料です。また、ご相談はご来所のほか、Zoom等のオンラインでの相談も承っております。
終わりに
特定技能と技能実習の間では、制度の目的や法的根拠にはじまり、就業可能な作業内容と分野などにも大きな違いが見られます。自社において雇用を検討している場合は、それぞれの特徴を把握したうえで、どちらの在留資格で外国人を雇用すればよいのか判断しましょう。
外国人労働者の雇用を検討している事業者様で、「特定技能と技能実習の違いをもっとわかりやすく教えてほしい」「特定技能と技能実習のどちらで受け入れるべきなのかわからない」といった場合は、お気軽にしらき行政書士事務所までお問い合わせください。