建設業を営む会社の多くは、労働人口の減少および給与水準の低さによる新規雇用の縮小などを背景とする人手不足に悩まされています。人手不足の問題は年々深刻化しているため、できるだけ早期に解決することが重要です。
近年、建設業の人手不足の問題を解決する手段として、特定技能外国人の雇用が活用されています。特定技能は、人手不足が深刻化している分野を対象とした人材確保のための制度であり、建設業でも活用できます。
そこで今回は、建設業で特定技能外国人を雇用するための手続きを解説します。必要な費用や技能実習を活用する場合との比較も紹介していますので、人手不足に悩まされている事業者様にとって必見の内容です。
目次
建設業界で特定技能が重宝される背景
昨今、建設業全体で、人手不足の問題が深刻化しています。国土交通省の資料によると、日本の生産年齢人口および総人口は減少を続けており、これに伴い建設業者数および建設業就業者数も減り続けている状況です。
その一方で、公共土木や民間建築では老朽化が進んでおり、今後はインフラ等の老朽化による維持修繕工事のニーズが高まるものと想定されています。
このように人手不足であるにもかかわらず需要が高まっている建設業界において、人手不足の解消は急務といえますが、それを実現する手段として特定技能外国人の雇用に注目が集まっています。
特定技能とは、2019年4月より開始された外国人労働者の在留資格です。特定技能の新設によって、建設業のほか介護やビルクリーニングといった人手不足が認められる業界において、外国人の受入れが解禁されました。
特定技能1号と2号の違い
特定技能の在留資格は、2種類に分かれています。
日本での就労を望む外国人がまず取得する特定技能の在留資格は1号であり、建設業をはじめとする12分野14業種が対象とされています。原則、1号の修了者が所定の試験に合格した場合、特定技能2号の在留資格を取得できる仕組みです。
特定技能1号の在留期間は通算5年で、その期間を超えて日本に滞在することは認められません。
これに対して、特定技能2号の場合、要件を満たしていれば更新可能で、更新の回数に制限はありません。そのため、特定技能2号の外国人は、日本の永住者となって将来的に日本の建設業の中心を担っていく可能性もあります。
なお、2023年4月現在、特定技能2号の対象は「建設業」と「造船・舶用工業」のわずか2業種のみです。
建設業界で特定技能外国人の受入れ数は増えている
制度の創設以降、建設業界では人手不足の解消を主な目的に、特定技能外国人を受け入れる会社が増えています。
出入国在留管理庁の資料より、建設業における特定技能在留外国人数の推移を見ると、令和3(2021)年12月末時点では4,871人だったものが、令和4(2022)年6月には8,493人となり、その年の12月末には12.776人(うち特定技能2号の外国人は8人)と、わずか1年間で受入れ数が3倍近く増えている状況です。
なお、特定技能在留外国人全体の人数を見ても、令和3年12月末時点では49.666人だったものが、令和4年12月末には130.923人にまで急増しています。
出入国在留管理庁「特定技能在留外国人数(令和4年12月末現在)概要版」
特定技能外国人が建設業の会社で働く際の業務・職種
建設業の会社で特定技能外国人を雇用する場合、大まかに以下3つの業務区分で受け入れることが可能です。
- 土木:土木施設の新設・改築・維持・修繕に係る作業等
- 建築:建築物の新築・増築・改築・移転・修繕・模様替えに係る作業等
- ライフライン・設備:電気通信、ガス、水道、電気その他のライフライン・設備の整備・設置、変更又は修理に係る作業等
それぞれの区分で認められる主な業務内容を下表にまとめました。
業務区分 | 主な業務内容 |
---|---|
土木 |
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建築 |
|
ライフライン |
|
上記の業務区分の中には、以下のような関連業務への従事も想定されています。
- 原材料、部品の調達や搬送
- 機器、装置、工具等の保守管理
- 足場の組立て、設備の掘り起こし、その他の後工程の準備作業
- 足場の解体、設備の埋め戻し、その他の前工程の片付け作業
- 清掃、保守管理作業
- その他、主たる業務に付随して行う作業
参考:一般社団法人特定技能人材機構「【重要】建設分野の特定技能に係る業務区分の変更について」
建設業界で特定技能の在留資格を取得する際の要件
外国人が特定技能1号の在留資格を取得するためには、以下2つの要件を満たす必要があります。
- 建設分野特定技能1号評価試験(※1)に合格
- 「日本語能力試験(JLPT)N4以上(※2)」もしくは「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)(※3)」に合格
ただし、建設分野に関する第2号技能実習を修了している外国人については、必要な技能水準および日本語能力水準を満たしているものとして、上記の要件が免除されます。
※1、一般社団法人建設技能人材機構(JAC)が運営している試験で、学科と実技により構成されている。コンピューターによるCBT方式で実施される。
※2、独立行政法人国際交流基金(JFT Basic)が運営する試験で、日本国内・海外で受験できる。
※3、独立行政法人国際交流基金(JFT Basic)と公益財団法人日本国際教育支援協会(JEES)が運営する日本語試験で、日本国内・海外で受験できる。
建設業の会社で特定技能外国人を雇用する際の手続き
ここからは、建設業の会社で特定技能外国人を雇用する際の大まかな手続きの流れを以下3つのステップで解説します。
- 受入れ機関の基準を満たす
- 建設業独自の基準を満たす
- 特定技能外国人を受け入れる
- 雇用後に必要な手続きを行う
①受入れ機関の基準を満たす
まずは、特定技能外国人を受け入れる機関として認められる基準を満たしましょう。受入れ機関が満たすべき基準の一例を以下に提示します。
- 労働、社会保険及び租税に関する法令を遵守していること
- 1年以内に特定技能外国人と同種の業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないこと など
受入れ機関として認められるための基準の詳細は、出入国在留管理庁の資料(以下URL)をご覧ください。
引用:出入国在留管理庁「特定技能外国人受け入れる際のポイント」令和3年12月更新
②建設業独自の基準を満たす
特定技能では、12の分野・業界によって異なる受け入れ基準が設けられています。建設業では、大まかに以下の要件を受入れ企業側で満たしておかなければなりません。
- 建設業の許可を取得していること
- 国土交通省より建設特定技能受入計画の認定を受けていること
- 建設キャリアアップシステムに加入していること
- 一般社団法人建設人材機構(JAC)に加盟していること
- 一般財団法人建設技能振興機構(FITS)の巡回指導を受けていること
建設業における特定技能1号外国人雇用のルールは、他業界よりも複雑でわかりにくいところがあります。
③特定技能外国人を受け入れる
上記で取り上げた基準を満たしたら、実際に特定技能外国人を会社に受け入れます。建設業で特定技能外国人を受け入れる流れは、基本的に以下のとおりです。
- 人材募集と面接を行う
- 特定技能雇用契約を締結する
- JAC/正会員団体に加入する
- 建設特定技能受入計画の認定申請を行う
- 1号特定技能支援計画を策定する
- 在留資格認定証明書交付申請(国外から呼び寄せるケース)・在留資格変更許可申請(すでに国内に在住しているケース)を行う
- ビザ申請を行う(国外から呼び寄せるケースのみ)
- 入国・就業を開始する
なお、国外から呼び寄せるパターンや国内で転職希望者を雇用するパターンにより必要となる手続きが異なるため注意しましょう。
④雇用後に必要な手続きを行う
特定技能外国人を雇用した後は、主に以下の手続きを行います。
- 社会保険(厚生年金・健康保険)の加入手続き(1人以上の従業員を使用する法人と、常時5人以上の従業員を雇用する事業主は必要)
- 労働保険(雇用保険・労災保険)の加入手続き(1人以上の従業員を使用する場合は必要)
- 在留期間更新許可申請(在留期限が到来する前に必要)
- FITSによる受入れ後講習の受講(受入後3ヶ月以内に必要。事前巡回指導を受けていた場合は省略できる)
- FITSによる定期巡回の受入れ(1年に1回必要)
- 国土交通省に対する受入れ報告(特定技能1号の在留資格が許可された後、速やかに行う必要)
- 入管に対する定期報告・随時報告(定期報告は4半期に1回、随時報告は支援計画の実行状況の定期報告や雇用契約や支援体制に変更があったときに必要)
建設業の会社で特定外国人を雇用する際にかかる費用
建設業の会社で特定技能外国人を雇用するにあたって、必要となる費用の大まかな目安を下表にまとめました。下表に提示した金額はあくまでも目安であり、実際にかかる費用とは異なるケースがあるためご注意ください。
海外からの呼び寄せるケース | 国内で特定技能に移行するケース | |
---|---|---|
人材紹介会社の紹介手数料 | 20万円〜60万円程度 | – |
送り出し機関への手数料 | – | 20万円〜40万円程度 |
在留資格認定・変更許可申請の委託費用 | 10万円〜20万円程度 | |
JACの賛助会員/正会員団体の年会費 | 5万円〜24万円程度(加入する団体により変動) | |
受入れ負担金 | 1人あたり1.25万円〜2万円程度/月(受入れ方法により変動) | |
登録支援機関への支援委託費用 | 1人あたり2〜3万円程度/月 | |
在留期間更新申請委託費用 | 5〜15万円程度 |
建設業界での特定技能と技能実習の活用を比較
建設業で外国人労働者を受け入れるにあたって、特定技能のほかに技能実習の在留資格を活用することも可能です。技能実習とは、外国人が日本の企業で働くことで技術を取得し、その技術を持ち帰って母国の発展に役立ててもらうことを目的とする制度です。
技能実習制度を活用する場合、残業規制が厳格化(月ごとの残業時間が45時間を超える場合は変更届の提出が、80時間を超えて延長しようとする場合は技能実習計画の認定しなおしがそれぞれ必要)されており、技能実習生を労働力として扱うことが難しくなっています。
そのため、日本人労働者と同じように柔軟に働いてほしいという場合は、特定技能の活用が望ましいです。
なお、特定技能1号の場合、在留期間は通算5年とされていますが、特定技能2号に移行できれば就労期限がなくなるため永続的に働いていただけるようになります。
終わりに
建設業の会社で特定技能外国人を雇用すれば、人材不足の解消につながります。ただし、日本人を雇用する場合よりも、複雑な手続きや多くの費用が求められるため注意が必要です。
外国人労働者の雇用を検討している建設業の事業者様で、「特定技能外国人を雇用するための手続きについて、わからないことがある」「特定技能外国人を雇用するまでの手続きをサポートしてほしい」といった場合には、外国人雇用に詳しい行政書士に相談してみるのも一つの方法となります。