我が国において、造船・舶用工業は地域経済・雇用を支えている重要な産業です。その一方で、近年は少子高齢化等の影響により生産年齢人口の減少が進んでおり、人手不足が深刻な状況となっています。
造船・舶用工業では、人材の確保・育成が喫緊の課題といえますが、人手不足の問題は年々深刻化しているため、できるだけ早期に解決することが重要です。そのためには、国内人材だけでなく外国人も対象とした人材確保が求められます。
近年、造船・舶用工業の人手不足の問題を解決する手段として、特定技能外国人の雇用に注目が集まっています。特定技能は、人手不足が深刻化している分野を対象とした人材確保のための制度です。造船・舶用工業もその対象に含まれています。
そこで今回は、造船・舶用工業で特定技能外国人を雇用するための手続きを解説します。必要な費用や種類も紹介していますので、人手不足を解決したい事業者様にとって必見の内容です。
目次
造船・舶用工業分野の課題と特定技能のメリット
日本において、造船・舶用工業は地域貢献を含む経済成長や安全保障に貢献し続ける上で非常に重要な役割を担っている産業です。
その一方で、造船・舶用工業分野は全体として有効求人倍率が高い傾向があり、将来的には人手不足がより一層深刻化するものと見られています。
「重化学工業」というイメージが強いうえに、典型的なBtoB産業であるために社会的認知度が低い造船・舶用工業において、次の世代を担う優秀な人材を確保・育成するには、業界の自助努力だけでなく、海外人材の活用も必要不可欠です。そこで2019年4月、造船・舶用工業分野の基盤維持と発展を目的に、特定技能制度の活用が開始されました。
造船・舶用工業分野において特定技能外国人を雇用すれば、人手不足の解消だけでなく、即戦力人材の確保も期待できます。
加えて、造船・舶用工業分野では、特定技能2号への在留資格の移行も認められています。特定技能2号の場合、要件を満たしていれば更新可能で、更新の回数に制限はありません。そのため、特定技能2号の外国人は日本の永住者となって、将来的に日本の造船・舶用工業の中心を担っていくことも期待されています。
造船・舶用工業分野で特定技能外国人の受入れ数が増えている
特定技能の在留資格が創設されて以降、造船・舶用工業分野では人手不足の解消を主な目的として、特定技能外国人を受け入れる企業が増加しています。
出入国在留管理庁の資料から、造船・舶用工業分野における特定技能在留外国人数の推移を見ると、令和3(2021)年12月末時点では1,458人だったものが、令和4(2022)年12月末には4,602人となり、わずか1年間で受入れ数が3倍以上増えていることがわかります。
なお、全業種における特定技能在留外国人の受け入れ数を見ても、令和3年12月末時点では49.666人だったものが、令和4年12月末には130.923人にまで急増しています。
造船・舶用工業分野の特定技能で従事できる業務
造船・舶用工業の会社で特定技能外国人を雇用する場合、大まかに以下6つの業務に従事させることが認められています。下表にそれぞれの具体的な業務内容も合わせてまとめました。
業務 | 概要 |
---|---|
溶接 |
・船舶の主要な構造材料である厚板を下向きで溶接する(特定技能1号) ・船舶の主要な構造材料である厚板を上向きや横向き等高度な溶接 および現場における監督を行う(特定技能2号) |
塗装 |
貝類の付着防止・防食・水との摩擦軽減などを目的に、船体に対して塗装する |
鉄工 |
鉄板を切断・加工し、船体を構成するブロックを作るためのパーツの製造する |
仕上げ |
舶用エンジンの部品のはめ合わせやプロペラの部品の表面の粗さ・表面性状などの向上を担当する |
機械加工 |
船舶エンジンの部品等の切削加工を行う |
電気機器組立て |
船舶用配電制御システム(配電盤や制御盤等)の組立・配線や試験の実施を担当する |
上表の中でも、溶接については特定技能1号と2号で認められている業務の範囲が異なるため注意が必要です。なお、2023年4月現在、造船・舶用工業分野において特定技能2号の在留資格を持つ外国人はいません。
造船・舶用工業分野で特定技能の在留資格を取得する条件
外国人が特定技能「造船・舶用工業」の在留資格を取得するには、日本語能力試験および技能試験への合格が求められます。なお、造船・舶用工業分野に該当する職種の技能実習2号を修了している場合、これらの試験なしで在留資格「特定技能」への移行が認められます。
日本語能力試験の合格
「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT‐Basic)」もしくは「日本語能力試験(JLPT)」への合格が求められます。
「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT‐Basic)」は、実施場所ごとにスケジュールが異なるため、詳細はWebサイトでご確認ください。
日本語能力試験については、N4以上のレベルに合格しなければなりません。試験はマークシート方式で、年に2回、日本各地および海外の実施機関で行われています。
N4試験に合格すると、よく使われる表現や文章など基本的な日本語を理解できる能力があると判断されます。仕事・買い物・個人情報など自分の身の回りに関する内容であれば、簡単な日本語で説明できるでしょう。
技能試験の合格
上記の日本語能力試験に加えて、「造船・舶用工業分野特定技能1号試験」に合格しなければなりません。
試験は学科試験と実技試験で構成されています。また、試験内容は、業種・業務によって6つの区分に分かれている点が特徴的です。合格した試験区分と異なる業種では特定技能外国人材を雇用できないため、受入れの際はご注意ください。
なお、技能試験の水準は、以下のとおり定められています。
造船・舶用工業分野の業務に即戦力として従事できる一定の専門性・技能を有することを確認する観点から、実務経験2年程度の者が、事前に当該試験の準備を行わず受験した場合に、7割程度合格できる水準
例えば、溶接の実技試験の場合、指定の方法で片面突合せ溶接を行い、外観試験と曲げ試験の結果欠陥がなければ合格と判断されるでしょう。
企業が造船・舶用工業の特定技能外国人を受け入れる条件
特定技能「造船・舶用工業」の在留資格を活用する際は、受入れ側の企業にも条件が課されています。主な条件は、以下の3つです。
賃金と雇用形態に関する決まりの遵守
特定技能の外国人労働者には、日本人と同様に最低賃金法と労働基準法が適用されます。当然ながら、不当に低い賃金で働かせたり、休憩や休日を与えなかったりすることは禁止されています。
同じ業務に従事している日本人労働者と同等もしくはそれ以上の報酬を支払い、適切な雇用形態で働かせることが求められます。なお、造船・舶用工業分野において、特定技能外国人は派遣社員としての雇用はできず、直接雇用のみ認められている点に注意しましょう。
造船・舶用工業分野特定技能協議会への加入・協力
外国人労働者の受入れにあたって、造船・舶用工業分野特定技能協議会への加入が求められます。
初めて特定技能外国人を受け入れる場合、入国後4ヶ月以内に造船・舶用工業分野特定技能協議会に加入しなければなりません。もしも期間が過ぎてしまうと、今後の受入れが認められなくなってしまいます。
2回目以降は協議会の構成員であることを地方出入国在留管理局に証明しなければ、受け入れが認められないためご注意ください。造船・舶用工業分野特定技能協議会への加入後は、構成員として指導や調査などに協力する必要があります。
特定技能外国人に対するサポート
特定技能外国人の受入れにあたって、法律で定められた支援を行う体制を構築しておかなければなりません。
日本に滞在している間、日常生活や労働に問題がなく、継続的に社会活動を行えるよう支援計画を策定しましょう。サポート内容には、入国前の事前ガイダンスや出入国時の送迎、相談対応などが含まれます。
初めて特定技能外国人を受け入れる企業や支援体制の構築に不安があるという企業については、登録支援機関にサポートを依頼することも選択肢のひとつです。
造船・舶用工業の特定技能外国人を雇用する手続きの流れ
ここでは、造船・舶用工業の特定技能外国人を雇用するために必要な手続きについて、大まかな流れを紹介します。ここで提示する手続きはあくまでも大まかなものであり、受入れ企業や外国人労働者の状況によって異なるケースがあるためご注意ください
- 対象の外国人労働者が特定技能「造船・舶用工業」の在留資格を取得する条件を満たしている
- 受入企業側で造船・舶用工業の特定技能外国人を受け入れる条件を満たしている
- 特定技能で雇い入れる外国人と特定技能雇用契約を締結する
- 外国人労働者に健康診断を受けてもらう
- 健康診断の診断書と合わせて、外国人労働者に在留資格申請に必要な書類を準備してもらう
- 在留資格申請書類・会社の必要書類・支援計画書を準備する
- 外国人労働者に対して事前ガイダンスを行う(テレビ電話でも可能)
- 日本側で在留資格認定証明書の交付申請を行う
- 認定証明書交付後に、現地の日本大使館で査証申請を行う
- 空港へ外国人労働者を迎えに行く(支援義務あり)
- ハローワークへの届出や各種福利厚生の手続等を行う
- 外国人に対して支援を実施する
- 造船・舶用工業の協議会に加入する
- 法律で定められた届出や定期面談を実施し、必要な報告を行う
雇用時の必要書類
特定技能外国人を受け入れる際、在留資格の取得・変更や協議会への加入手続きなどの実施にあたって、所定の書類を準備しなければなりません。
在留資格の取得にあたって、在留資格認定証明書の申請を行う際には添付書類として以下の書類が必要です。この書類は、特定技能外国人の初回受入時に取得が求められるものです。
造船・舶用工業事業者の確認申請書
また、造船・舶用工業分野における事業者の確認及び協議会加入手続きに必要な書類は主に以下のとおりです。
造船・舶用工業分野に係る特定技能外国人に関する協議会の加入申請書(造船・舶用工業事業者用)
なお、協議会の加入は受け入れ後でも問題ありませんが、上記の「造船・舶用工業事業者の確認申請書」と併せて事前に申請することも可能です。これにより、手続きの手間が省けるため、実務上は両方同時に申請しています。
上記のほかにもケースに応じて、所定のタイミングで書類の提出を別途求められる可能性があるためご注意ください。
終わりに
造船・舶用工業を営む会社で特定技能外国人を雇用すれば、人手不足の解消や即戦力人材の確保などのメリットが期待できます。一方、日本人労働者を雇用するときよりも、複雑な手続きや多くの費用が求められるためご注意ください。
外国人労働者の雇用を検討している造船・舶用工業の事業者様で、「特定技能外国人を雇用するための手続きについて、わからないことがある」「特定技能外国人をスムーズに雇用できるよう、手続きをサポートしてほしい」といった場合には、お気軽にしらき行政書士事務所までお問い合わせください。