日本で働く外国人労働者の数は年ごとに増加しており、人手不足に対応するため、日本政府は特定技能を持つ外国人の受け入れを増やす方針を明確にしています。
ただし、技能実習制度における劣悪な労働条件や不適切な待遇に関しては、日本国内の主要メディアやアメリカを含む海外の政府からも問題提起されています。
これにより、外国人雇用を拡大する目的の一環として、特定技能制度の見直しも進められています。
この記事では、現在の特定技能制度にどのような問題があるのか、そして見直しで何が議論されているのかをわかりやすく説明します。
目次
特定技能のしくみ
まずは、特定技能がどのような制度なのか、しくみを簡単に説明します。
目的と成り立ち
特定技能とは、国内人材の確保が難しい状況にある産業分野において、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れることを目的とする制度です。
2018年に可決・成立した改正出入国管理法により在留資格「特定技能」が創設され、2019年4月から受入れが可能となりました。
在留資格
特定技能には、2種類の在留資格があります。
「特定技能1号」は、特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。
これに対して、「特定技能2号」は特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。
要件
特定技能ビザでは、日本語要件として日本語能力試験N4以上、または国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)A2レベル程度の結果、そして技能要件として各分野・業務区分で設置された技能試験への合格が必要です。
なお、各分野・業務区分に対応する技能実習2号を良好に修了した外国人は、技能試験を免除されます。
また、介護分野に関しては、日本語要件として介護日本語評価試験の合格も必要な点には留意しておきましょう。
対象分野・業種
「特定技能」の対象業種は、国内で十分な人材を確保できないとされ、特定産業分野に指定されている以下の12種です。
- 介護
- ビルクリーニング業
- 素形材産業・産業機械・電気電子情報関連製造業(2022年に統合)
- 建設業
- 造船・舶用工業
- 自動車整備業
- 航空業
- 宿泊業
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
なお、2022年4月26日の閣議決定により、特定技能制度の受け入れ対象業種が14業種から12業種に再編されました。
対象業種が減少したのではなく、既存の3業種が統合される形となっています。
具体的には、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業の3業種が統合することになり、「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」となりました。
また、「特定技能2号」については、2022年以前は「建設」と「造船・舶用工業」の2分野しかありませんでしたが、2023年より「介護」分野を除く11分野に対象が拡大しました。
「介護」分野については、在留資格「介護」などの別の移行先があることから2号の創設は見送られています。
技能実習との違い
特定技能制度と技能実習制度は、どちらも外国人労働者に日本の企業で働いてもらうという点では共通していますが、その目的には大きな違いがあります。
特定技能制度は、日本の深刻な人手不足問題に対応するために設けられたものです。これにより、特定の業務に必要な外国人労働力を確保することが目的です。この制度では、専門的なスキルが不要な単純労働も含まれる仕事に従事することが可能です。
一方で、技能実習制度は、外国人が日本で技術や知識を学び、それを母国に持ち帰って利用することを通じての国際貢献を目的としています。技能実習では、主に専門性の高い技術を学ぶために来日しており、単純労働は含まれません。
ただし、特定技能制度で単純労働に従事できるといっても、それが仕事内容のすべてというわけではなく、単純労働以外の業務も行うことが前提となっている点を理解しておくことが重要です。
特定技能の現状
2023年3月末時点において、特定技能の在留資格を持って日本に在留している外国人の数は「特定技能1号」で154,864人、「特定技能2号」で11人います。
また、在留外国人数(総数)のうち、特定技能の在留資格で在留している外国人の割合は3.0%です(2022年6月末時点)。これに対して、技能実習の在留資格で在留している外国人の割合は11.1%と、3倍以上多いことが分かっています。
現行の特定技能制度の問題点
ここからは、現在の特定技能制度に関して指摘されている問題点として、技能実習制度と絡めながら以下の4つのトピックを紹介します。
- 目的が形骸化している
- 賃金未払いや人権侵害
- 長期的な労働力確保・経済成長が難しい
- キャリアパスを描きにくい
それぞれ順番に解説します。
目的が形骸化している
技能実習制度は、もともと「技術や知識の移転を通じた他国への貢献」を目的として設立されました。しかし、実際には日本国内の労働力不足を補う手段として使われることが多く、本来の目的が薄れてしまっているという問題が指摘されています。
これは、技能実習制度と特定技能制度が、実際には似たような目的で使われているにも関わらず、別々の制度として運用されていることで、手続きが複雑になっている一因とも考えられています。
賃金未払いや人権侵害
特定技能や技能実習の制度で在留している外国人が、給料の未払いや長時間労働、暴行や暴言といった人権侵害の問題に直面しているケースがしばしば報告されています。
技能実習生は基本的に転籍が許されていないため、不適切な扱いに対して相談や交渉をするのが難しい状況にあり、国際的な批判の原因となっています。実習生を管理する団体の監査やサポートが不足していることも、これらの問題が根本的に解決しない一因とされています。
長期的な労働力確保・経済成長が難しい
特定技能制度を通じて外国人労働者を受け入れることは、人手不足の問題を緩和し、経済成長を促進する可能性があります。
ただし、特定技能1号の労働者は最大5年間しか働けないうえに、無期限で働ける2号の対象職種は限られているため、これらの効果は限定的であるとの指摘がされています。
日本の長期的な労働力不足解消と経済の持続的な成長を実現するためには、長期間にわって働くことができる外国人労働者の数を増やすことが必要だという意見も出ています。
キャリアパスを描きにくい
多くの技能実習生が特定技能制度へ移行することを選択していますが、技能実習制度で対象とされる職種と特定技能制度で対象となる分野が一致しないため、彼らにとって一貫したキャリアを築くことが難しいという問題が存在します。
外国人労働者に日本での長期就労を望むのであれば、技能実習から特定技能へスムーズに移行できるような体制を整える必要があるでしょう。
見直しの方針・内容
ここまでに取り上げた問題点を踏まえ、政府は2023年6月9日に「特定技能2号」の対象分野の拡大を決定しました。
また、2022年12月より16回にわたって技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議が開催されました。ここまでに示されている主な方針についてチェックしていきましょう。
「特定技能2号」の対象拡大
日本で永住することを可能にする「特定技能2号」の対象分野が、2分野から11分野にまで広がることになりました。
介護分野はこの拡大対象に含まれていませんが、介護職にはすでに専用の在留資格が設けられているため、結果として特定技能の対象となるほぼすべての分野で永住が可能となりました。
特定技能制度は2019年に開始され、2024年5月以降には特定技能で来日した労働者の多くが帰国する時期が近づいています。
これを受けて、政府は2023年6月に対象分野の拡大を決定しました。そして、2023年8月31日には「出入国管理及び難民認定法」に基づく省令の一部改正が行われ、特定技能2号の対象分野の追加が正式に施行されています。
技能実習制度の廃止と代替制度の設立
政府は、「国際貢献」を目的にした現在の技能実習制度を廃止し、「人材確保」と「人材育成」を主な目的とする新しい制度「育成就労」を作ることを検討しています。
この新しい制度の考え方では、特定技能制度は引き続き維持され、その支援体制や新制度との連携についても検討される予定です。
新しく創設予定の「育成就労」制度では、外国人労働者が将来のキャリアを構築しやすくなるよう、職種の範囲を特定技能制度と合わせることが目指されます。
また、労働者の育成や評価方法についても、どのように進めるべきかが今後の大きな議論のテーマになります。
管理団体や支援体制の見直し
これまでにも管理団体や登録支援機関の重要性は認識されていますが、人権侵害などに適切に対応できない管理団体や、十分な支援を提供できない登録支援機関に対しては、その資格を厳しく審査し、必要に応じて除外していく方針です。
さらに、問題を起こす送出機関に対しては、国同士で協力して取り締まりを強化します。
また、外国人労働者の受け入れ予定数の見直しや、彼らの日本語能力向上のための取り組みも積極的に議論されています。
制度見直しで期待される効果
「特定技能2号」の対象範囲が広がると、すでに「1号」を持っている人たちにも日本での永住という選択肢が提供されるようになります。
「2号」では家族の同伴も認められるため、外国人労働者だけでなくその家族も含めて、日本で生活する人の数は増えることが予想されます。
これに伴い、外国人が日本で快適に生活できるような支援環境を整えることが重要になるでしょう。日本語が話せない状態での行政手続きや保育園の探索などは困難であり、地域社会の支援が不可欠です。
この増加する中長期滞在者や永住者に対応するため、文化庁は地方自治体に対して日本語教育の強化を促しています。ただし、財政的に厳しい状況の自治体も多く、これらの対策を実施するにはいくつかの課題があるとされています。
賃金未払いや人権侵害の側面でいうと、従来は特定技能や技能実習制度における人権侵害が国際的に批判されていたこともあり、グローバル的な展開を行う企業を中心に、制度の利用を躊躇する傾向がありました。
諸問題を解決できる形で新制度「育成就労」が設立されれば、外国人採用に踏み出す企業は増えると予想されます。
終わりに
本記事では、特定技能制度のしくみや現在どのような問題があるのか、そして見直しで何が議論されているのかを紹介しました。
新制度「育成就労」の創設も相まって、今後は日本で働く外国人労働者が増加していくものとみられています。その中で、受入れ企業としては、どの制度を使って外国人を受け入れるか、どのようなサポート体制を敷くかなどがカギになってきます。
特定技能制度については、今後も新しい情報が入り次第、コラム記事の執筆やご相談対応などを通じて皆さまに情報をお届けします。
もし「特定技能」の利用をした外国人労働者の受入れを検討していて不明点がございましたら、お気軽に「しらき行政書士事務所」までお問い合わせください。