2023年6月9日、特定技能2号の対象分野拡大について政府が閣議決定を行った旨のニュースが各報道機関からリリースされました。
特定技能制度とは、日本の労働力不足を補うべく、政府が外国人労働者の受け入れを拡大するために導入した在留資格のことです。2019年4月から始まったこの制度は、特に労働力が不足している12の業種を対象として、特定のスキルを持つ外国人労働者が日本で働くことを可能にしています(2023年6月現在)。
ただし、在留期間は通算5年間までしか認められず、期間の経過後は「特定技能」での滞在が認められなくなります(特定技能1号の場合)。そこで例外として、建設分野と造船・舶用分野において「特定技能2号」と呼ばれる資格が設定され、通算5年の制限がないうえに、家族を呼び寄せることや将来的に永住許可の取得することなども認められるようになりました。
このように、特定技能の在留資格は1号と2号に分かれていますが、本記事では先日発表された「特定技能2号における対象分野について、これまでの2分野から11分野に拡大する方針を政府が閣議決定したニュース」をわかりやすく解説します。
目次
特定技能2号の対象分野の拡大、政府が閣議決定
2023年6月9日、在留資格「特定技能2号」について、政府は新たに外国人労働者の受け入れ範囲を拡大することを閣議決定しました。
特定技能2号は、熟練の外国人労働者が日本で永住することを可能とする在留資格です。これまで建設分野と造船・舶用分野のみが受け入れの対象でしたが、今回の閣議決定によりさらに9つの分野が加わります。
新たに追加されるのは、農業、漁業、外食業、宿泊、航空、自動車整備、ビルクリーニング、飲食料品製造業、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業です。ここには介護分野が含まれていませんが、この理由としては「介護分野の場合、介護福祉士の資格を取得できれば、在留資格「技術・人文知識・国際業務」へ変更が可能となり、すでに別のルートで長期就労できる道が確保されているためです。
出入国在留管理庁の資料によると、特定技能1号の在留外国人は154,864人いますが、特定技能2号の在留外国人はわずか11人しかおらず、その人たちはすべて建設分野という状況です(いずれの人数も令和5年3月末時点の速報値)。
特定技能2号の対象分野の拡大により、上記に挙げた9つの業界でも外国人労働者が長期的かつ安定した雇用を得る機会が増えるものと見込まれており、日本における外国人労働者受け入れの動きは大きな変革を迎えることになります。
特定技能1号と2号の違い
特定技能1号は、特定産業分野に属する相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。これに対して、特定技能2号は、特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。
それぞれの在留資格の主な相違点を下表にまとめました。
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
---|---|---|
在留期間 | 1年、6ヶ月または4ヶ月ごとの更新(通算で上限5年まで) | 3年、1年または6ヶ月ごとの更新(通算の上限なし) |
技能水準 | 試験等で確認される(技能実習2号を修了した外国人は試験等免除) | 試験等で確認 |
日本語能力水準 | 生活や業務に必要な日本語能力を試験等で確認(技能実習2号を修了した外国人は試験等免除) | 試験等での確認は不要 |
家族の帯同 | 基本的に認められない | 要件を満たせば認められる(配偶者、子ども) |
受入れ機関または登録支援機関による支援 | 支援の対象に含まれる | 支援の対象に含まれない |
上表を見るとわかるように、特定技能1号は2号と比べて資格取得のハードルが比較的低いものの、在留期間の上限が通算で5年間に制限されているうえに、家族の帯同が認められないといったデメリットがあります。
一方で、特定技能2号については、対象分野が2分野と少ないうえに、求められる技能水準が厳しいこともあり、現状の資格保有者が非常に少なく、制度の活用はほとんどされていないのが現状です。
特定技能2号の対象分野拡大についてよくある質問
ここからは、特定技能2号の対象分野拡大に関して、当事務所に多く寄せられている質問を紹介します。
特定技能2号の対象分野拡大はいつから?
前述のとおり、特定技能2号の対象分野拡大について閣議決定がされたのは2023年6月9日のことです。
以降は衆議院および参議院の両院で決議されることになり、可決されたとすると早ければ2024年中には施行される可能性があります。なお、これはあくまでも予想であり、実際の実施開始についてはまだ公表されておりませんのでご注意ください。
現在、特定技能1号の在留資格により職場で働いている外国人の方からすれば、特定技能2号に移行できれば、家族帯同や永住の可能性があるため、働くモチベーションの向上につながることが想定されます。今後、長く特定技能の外国人を雇用したいと考えている受入れ企業としては、受け入れ体制を整えておくことが大切となります。
特定技能2号の対象分野拡大にある背景は?
現在、特定技能2号の対象分野拡大が進められている理由としては、まず制度上の課題があります。
2024年5月以降、特定技能制度の創設当初から働く外国人の方が在留期限を迎え始めます。現状では多くの外国人の方が帰国を迫られ、今後も引き続き日本で働くことが認められる制度を早急に整備する必要があるのです。
また、世界的な労働力不足の問題も関係しています。日本政策投資銀行グループ「価値総合研究所」の資料によると、2040年に日本が目標とするGDPに到達するために必要な外国人労働需要量は674万人と推計されています。これは現在の4倍近い数字です。
少子化は日本に限らず世界各国で進んでおり、労働力獲得の競争が激化しています。こうした状況下で、政府としては、特定技能制度の不備を早急に解消し、高い技能を持つ外国人労働者を迎えて、長く働ける環境を整備する必要性に迫られています。
特定技能2号の外国人を採用する方法は?
2023年6月現在、企業が特定技能2号の外国人を採用するための方法としては、以下の3つがあります。
- 現在自社で従事している外国人労働者を特定技能1号から2号に移行する
- 他社で特定技能1号人材として実務経験を積んだ外国人を採用し、2号に移行する
- 他社で働いていた特定技能2号の外国人を採用する
また、2023年6月現在、外国人が特定技能2号を取得するための方法は、1号からの移行のみです。1号から移行するためには、特定技能2号試験に合格しなければなりません。加えて、自社の産業分野において、作業者の指揮・命令・管理の実務経験を積む必要があります。
特定技能1号の在留期間は最長5年間であり、受け入れ企業側としては在留期間の満了前までに外国人労働者を特定技能2号レベルに育成しなければなりません。あるいは、他社で特定技能1号として働いていた外国人に、技能試験に合格してもらう必要があります。
終わりに
日本の人口減少が続き、優秀な人材を求める競争が世界規模で激化している昨今、政府としては熟練の外国人労働者に日本で長く働いてもらうための環境を整えることが非常に重要となっています。
また、日本の企業としても、特定技能外国人の受け入れにあたって、さまざまな課題があります。例えば、良好な労働環境を確保することや、労働法や出入国管理法などの法律を遵守することなどです。
特定技能2号の対象分野拡大に関する情報は、今後も新たな動きがあり次第、随時アップデートしていく予定ですので、ぜひこまめにチェックしてください。
しらき行政書士事務所では、「自社の場合、特定技能と技能実習のどちらの在留資格で外国人を受け入れた方が良い?」「技能実習から特定技能1号に変更するために必要なことは?」「新規で特定技能で呼び寄せたいが、手続きがわからない」といったご相談を随時受け付けております。
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