在留特別許可は、日本に不法滞在している外国人が特別な事情を考慮され、日本での在留を正式に認められる制度です。通常、不法滞在者は強制退去の対象となりますが、日本人配偶者との婚姻や人道的な事情などが考慮され、例外的に在留が許可される場合があります。
在留特別許可の申請を検討している方にとって、どのような条件で許可が得られるのか、また必要な手続きや書類が何かを理解することは非常に重要です。「仮放免」との違いや、申請から許可までの流れ、実際の許可率などは、多くの申請者が気になるポイントでしょう。
本記事では、在留特別許可の概要や申請条件、必要書類、そして許可が認められる可能性について詳しく解説します。これから申請を考えている方が適切に準備を進められるよう、わかりやすくまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
目次
在留特別許可とは
在留特別許可は、オーバーステイ・不法滞在、不法入国等により日本を出国または退去強制となる外国人に対して、法務大臣が特別に在留を許可する制度です。
在留特別許可は必ず認められるわけではなく、個々の事案ごとに、在留を希望する理由、家族状況、素行、内外の諸情勢、人道的な配慮の必要性、日本における不法滞在者に与える影響など、様々な事情を総合的に考慮して判断されます。
この審査は非常に厳しく、人道的な配慮の必要性などを立証していく必要があります。通常の在留ビザの申請とは異なり、専門的な知識を持ち、綿密な計画と準備をして、申請をする必要があるため、申請にあたってはまず専門家に相談すべきでしょう。
4つの類型
在留特別許可の審査では、一定の条件を満たすことで許可が得られやすくなる場合があります。ここでは、審査に有利となる4つのポイントについて解説します。
①永住許可を取得している
永住許可を持つ外国人は、すでに以下の条件を満たしているため、審査で考慮されることがあります。
- 素行が善良である
- 安定した収入があり、自立した生活ができる
- 日本の社会に適合し、国益に寄与している
ただし、永住許可があるからといって必ずしも在留特別許可が認められるわけではありません。
②過去に日本国籍を持っていた
元日本人であった場合、過去に日本社会と深い関係があったことが考慮されます。ただし、第二次世界大戦後に日本国籍を離脱した朝鮮人や台湾人は対象外となります。
「元日本人」とは、以下のようなケースを指します。
- 外国籍を取得し、日本国籍を喪失した元日本人
- 国際結婚により外国籍を選択した元日本人
なお、元日本人は帰化申請などで一定の緩和措置を受けられることがあります。
③人身取引などの被害に遭い、日本に滞在している
強制労働や人身取引の被害者として日本に滞在している場合、人道的配慮が必要と判断され、在留特別許可が考慮されることがあります。
④法務大臣が特別に在留を認める事情がある
上記のケース以外にも、個別の事情を考慮し、特別に在留が許可されることがあります。例えば、日本に長期間滞在し、家族がいる場合など、特別な配慮が求められる場合が該当する可能性があります。
在留特別許可が出やすいケース
在留特別許可は、申請者の個別の事情や背景を総合的に考慮して判断されるものであり、すべての申請者に許可が下りるわけではありません。しかし、以下の要素は審査において重要視される傾向があります。
|
審査に影響を与える要素 |
補足 |
|---|---|
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長期在留 |
日本で長期間(目安は20年以上)生活している外国人は、地域社会との結びつきが深まり、社会に定着しているとみなされることがあります。 |
|
家族とのつながり |
日本に配偶者や未成年の子どもがいる場合、特に家族の扶養者である場合には、家族関係が考慮される可能性があります。 |
|
経済的自立 |
日本で安定した仕事に就いている、または経済的に自立していることが確認できる場合、社会に負担をかけないという観点から、審査で有利に働くことがあります。 |
|
模範的な生活 |
過去に犯罪歴がなく、社会生活を健全に送っている場合、良好な評価を得られることがあります。地域社会との良好な関係も審査に影響する要素です。 |
上記を踏まえると、以下のような状況にある場合、在留特別許可が下りる可能性が比較的高いと考えられます。
- 日本国籍を持つ配偶者がいる外国人
- 「永住者」または「定住者」の在留資格を持つ外国人と結婚している場合
- 日本国籍を持つ子どもの親である場合
ただし、日本人と結婚していても必ず許可が下りるわけではなく、逆に結婚していなくても、長期間日本に滞在していた家族が許可を受けたケースもあります。そのため、最終的な判断は個別の状況を総合的に考慮して行われる点に留意する必要があります。
法務省の入国管理局のサイトでは、実際に在留特別許可が認められた事例や認められなかった事例が公開されています。申請を検討する際は、これらの事例を確認し、自身のケースと照らし合わせることをおすすめします。
参考:出入国在留管理庁「在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について(令和4年)」
在留特別許可の取得が難しい場合
在留特別許可の審査では、特に法令違反に関わる行為が厳しくチェックされます。以下のようなケースでは、許可が下りにくくなるため注意が必要です。
|
認められにくい主なケース |
補足 |
|---|---|
|
出入国管理法に違反している場合 |
偽造パスポートの使用や作成、不法入国・不法滞在などの重大な違反がある場合、審査は極めて厳しくなります。 |
|
反社会的な行為に関与している場合 |
売春の斡旋や違法なビジネスへの関与など、社会秩序を乱す行為に関与していると判断される場合は、在留特別許可が認められる可能性は極めて低くなります。 |
これらの行為に該当する場合、許可が下りる可能性は極めて低いため、事前に専門家に相談し、適切な対応を検討することが重要です。
許可率
以下に、近年における在留特別許可の件数と許可率をまとめました。
|
法務大臣への異議申出件数 |
在留特別許可件数 |
許可率 |
|
|---|---|---|---|
|
2015年 |
3,163件 |
2,023件 |
約64% |
|
2016年 |
3,078件 |
1,552件 |
約50% |
|
2017年 |
2,522件 |
1,255件 |
約50% |
|
2018年 |
2,128件 |
1,371件 |
約64% |
|
2019年 |
2,256件 |
1,448件 |
約64% |
在留特別許可の承認率は年度ごとに変動がありますが、法務大臣に異議を申し立てた人のうち、50%~64%が許可を受けていることがわかっています。このデータから考えると、平均して半数以上のケースで在留特別許可が認められる可能性があると言えるでしょう。
在留特別許可の判断基準
在留特別許可の判断には、明確な基準が定められていません。退去強制が妥当とされた外国人が日本での在留を希望し、異議を申し立てた場合、違反の内容や家族・生活状況、素行、世界情勢、許可・不許可の影響など、さまざまな要素を総合的に考慮して決定されます。
退去強制に関わるケースはそれぞれ異なり、個別に詳細な調査を行いながら判断するため、一律の基準を設けることが難しいのが実情です。
在留特別許可が受けられない場合どうなる?
在留特別許可が認められなかった場合、退去強制処分となり、場合によっては収容される可能性もあります。一方、在留特別許可を受けたとしても、これは退去強制手続きの特例措置に過ぎず、最終的には帰国が必要となることが一般的です。
過去の許可事例では、在留特別許可を受けた後の在留期間は1年間と定められるケースが多いとされています。
在留特別許可の申請手順
法務省の「ガイドライン」では、出入国在留管理局への出頭は在留特別許可の判断材料として考慮されるとされています。しかし、自主的に出頭することが必ずしも有利に働くとは限らず、実際の判断はケースごとに異なります。そのため、出頭前に行政書士などの専門家に相談し、適切な対応を検討することが重要です。
在留特別許可の申請手続きの大まかな流れは以下のとおりです。
- 行政書士に相談・依頼:まず専門家のアドバイスを受け、手続きの準備を進めます
- 出入国在留管理局へ出頭:必要書類を持参し、自主的に出頭します
- 入国警備官による違反調査:不法滞在や違反行為の有無が調査されます
- 収容・仮放免申請:収容される場合があり、仮放免の申請が可能です
- 入国審査官による違反調査:在留資格の状況や滞在歴などを詳細に調査されます
- 口頭審理の請求:必要に応じて、口頭での審理を求めることが可能です
- 口頭審理の実施:退去強制の妥当性などについて、意見を述べる場が設けられます
- 異議申し立て:口頭審理の結果に不服がある場合、異議を申し立てられます
- 法務大臣による最終裁決:法務大臣の判断により、最終的な決定が下されます
- 在留特別許可または退去強制:許可が下りた場合は在留資格が認められ、日本での滞在が可能になります(※)
※不許可の場合は退去強制処分となり、原則として日本からの出国を命じられます。
在留特別許可の手続きは複雑であり、申請の進め方次第で結果が大きく変わる可能性があります。出頭のタイミングや申請の準備が重要となるため、事前に行政書士などの専門家に相談し、慎重に対応することをおすすめします。
在留特別許可申請の必要書類
在留特別許可を申請する際には、主に以下の書類を準備する必要があります。
【申請書】
- 在留特別許可申請書(1部)
【必要な資料(該当するものを提出)】
- 永住許可を受けている場合
・在留カードのコピー - 過去に日本国籍を持ち、本籍を有していた場合
・除籍謄本
・除籍証明書または除籍電子証明書 - 人身取引などにより強制的に日本に滞在している場合
・陳述書(任意様式) - 難民認定や補完的保護対象者の認定を受けている場合
・難民認定証
・補完的保護対象者認定証明書のコピー - その他、特別な事情がある場合
・その事情を証明できる書類
必要な書類は、申請者の状況によって異なります。不足書類があると審査が遅れる可能性があるため、事前に確認のうえ、準備を進めてください。
在留特別許可申請を行う際の注意点
在留特別許可の申請には時間がかかり、厳しい審査が行われます。また、申請は本人が直接出頭しなければなりません。代理申請は認められていませんが、行政書士のサポートを受けながら進めることは可能です。すでに収容所にいる外国人でも申請は可能です。
在留特別許可の申請は、決して簡単な手続きではなく、長期間にわたる慎重な対応が求められます。許可が下りる可能性を高めるためにも、行政書士などの専門家に相談しながら、十分な準備をして申請を進めることをおすすめします。
在留特別許可についてよくある質問
最後に、在留特別許可申請を検討している方からよくある質問と回答をまとめました。
在留特別許可申請にかかる期間は?
審査には平均1年以上かかるため、長期的な準備と忍耐が必要です。退去強制の対象となる外国人が特例として在留許可を求める手続きであるため、必ず許可が下りるとは限りません。
最終的に退去強制となる可能性もあることを理解した上で申請しましょう。
在留特別許可で在留する外国人は雇用可能?
在留特別許可を申請中の外国人は、日本での就労は認められていません。本来、退去強制の対象となる立場であるため、企業が雇用することは原則として難しくなります。
日本の企業が外国人を雇用するためには、就労可能な在留資格(就労ビザ)を取得していることが必須条件です。在留特別許可の申請中の外国人は、在留資格を持っていないため、アルバイトや就職は認められません。適切な在留資格がない状態での雇用は法律違反となり、雇用主にも罰則が科される可能性があります。
在留特別許可が認められた後、就労可能な在留資格を取得した外国人であれば、日本の企業で合法的に雇用することが可能です。雇用する際は、在留カードを確認し、就労制限のない在留資格を持っているかどうかをチェックすることが重要です。
終わりに
在留特別許可は、日本で不法滞在状態にある外国人が、特別な事情を考慮され、合法的な在留資格を得るための制度です。しかし、すべての申請が許可されるわけではなく、申請者の生活状況や日本との結びつき、家族構成、素行などが厳しく審査されます。そのため、適切な準備と十分な証拠資料の提出が求められます。
申請を考えている方は、本記事で紹介した在留特別許可の条件、必要書類、手続きの流れを参考にしながら、できるだけ慎重に準備を進めましょう。また、申請の際には、専門的な知識を持つ行政書士に相談することで、許可を得る可能性が高まります。
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