海外のアーティストが日本でライブを行うためには、「興行ビザ」(正式には「興行」という在留資格)が必要です。
もし、観光目的と偽って短期滞在ビザで入国し、ライブ活動を行おうとすると、空港での入国が許可されず、イベントがキャンセルされる可能性があります。
さらに、滞在中に興行活動をしていることが判明した場合、そのアーティストは不法就労とみなされ、招へいした企業も不法就労助長の罪に問われ、処罰される危険性があります。
この記事では、海外アーティストが日本でライブを開催する際に必要な「興行ビザ」について、分かりやすく説明します。2023年8月に行われた法改正による変更点も取り上げているので、日本でのライブ活動をサポートする方はぜひ参考にしてください。
目次
興行ビザとは
そもそも興行とは、映画や演劇、音楽、スポーツ、エンターテインメントなどを特定の場所で一般の人々に見せたり聞かせたりする活動を指します。日本でこれらの活動を行うために外国人が必要とするのが「興行ビザ」です。
具体的には、ミュージシャン、俳優、モデル、ダンサー、プロのスポーツ選手、e-スポーツ選手などが、日本でコンサートやイベントに出演したり、映画撮影やレコーディングを行ったり、報酬を得て活動する際に、このビザが必要です。さらに、振付師や演出家、マネージャー、カメラマン、照明スタッフ、サーカスの動物飼育係、スポーツ選手のトレーナーなども、このビザが必要となります。
興行ビザは、仕事を目的としたビザの一種で、「芸能ビザ」や「エンターテインメントビザ」、「プロアスリートビザ」とも呼ばれることがあります。
興行ビザの在留期限は、3年・1年・6ヶ月・3ヶ月・30日の5種類が用意されています。
2023年8月の改正による条件緩和
以前は、興行ビザの取得条件が厳しく、必要な書類も複雑で、取得が難しいビザとされていました。しかし、2023年8月1日から、興行ビザの条件が一部緩和され、長期間のコンサートツアーや小規模なライブハウスでの活動でも、ビザが取得しやすくなりました。
さらに、イベント主催者に対する要件も緩和され、今後、より多くの外国人アーティストが日本で活動できるようになることが期待されています。
海外アーティストが日本のライブハウスで演奏するための興行ビザの種類と条件【改正版】
「興行ビザ」は、活動内容に応じて基準1号から3号までのカテゴリーに分かれており、それぞれのカテゴリーで取得条件が異なります。
海外アーティストが日本のライブハウスで演奏するために必要な興行ビザは、基本的に基準1号の「イ」「ロ」「ハ」のいずれかに該当します(※)。
以下に、カテゴリーごとのビザ取得条件をまとめています。
※基準2号は主にスポーツイベント、基準3号は芸能活動に適用されます。
興行ビザ「基準1号」
演劇、歌謡、舞踊、演奏などの興行活動を行う際に必要となるのが「基準1号」の興行ビザです。このビザは、施設や主催者の条件に応じて「イ」「ロ」「ハ」のカテゴリーに分けられており、ビザを取得するためには、これらのいずれかの条件を満たす必要があります。
興行ビザ「基準1号イ」
日本の招へい機関は、申請する外国人アーティストに対し、月額20万円以上の報酬を支払うことを契約書などで明確に示す必要があります。ただし、契約期間や活動内容によっては例外も存在します。
さらに、外国人アーティストを招へいする機関は、以下の条件をすべて満たしていることが求められます。特に、過去に「興行ビザ」で招へいした実績がない場合は、1号ビザの申請が難しくなることに留意が必要です。
- 外国人の興行に係る業務について、通算3年以上の経験を有する経営者もしくは管理者がいる
- 当該機関の経営者や常勤の職員のいずれもが、人身取引を行っておらず、売春防止法等の罪により慶に処されていない、暴力団員でない等
- 過去3年間に締結した興行契約に基づいて、外国人への報酬の支払い義務を果たしている
- 上記以外に、外国人の興行に係る業務を適正に遂行する能力を有するものである
加えて、興行が行われる施設についても、風営法第2条第1項第1号~第3号に該当する施設(例:キャバレーやキャバクラ、低照度の飲食店、5㎡以下の客席を持つ喫茶店、バーなど)以外であることが条件となります。
興行ビザ「基準1号ロ」
申請人である外国人アーティストの活動が、以下のいずれかに該当していなければなりません。
- 国・地方公共団体等が主催するもの、もしくは学校教育法に規定する学校等において行われるものであること
- 国、地方公共団体等の資金援助を受けて設立された本邦の公私の機関が主催するものであること
- 外国を題材にしたテーマパークで敷地面積10万㎡以上の施設で行われるものであること
- 客席における飲食物の有償提供がなく、客の接待を行わないものであって、客席部分の収容人員100人以上もしくは非営利の施設で行われるものであること
- 報酬1日50万円以上であって、30日を超えない期間本邦に在留して行われるものであること
2023年の改正により、上記リストの1つ目にある「客席での有償での飲食物提供」に関して、バーカウンターで飲食物を提供する場合でも、客が自分でカウンターから飲食物を受け取り、客席に持っていく形で飲食する場合は、この「客席での飲食物の有償提供」には該当しないことになりました。
日本には、バーカウンターが設置されている100~300人規模の小さなライブハウスが多くあります。今回の条件緩和により、こうしたライブハウスでも興行ビザを取得しやすくなり、利用可能な施設が大幅に増えたと言えるでしょう。
2つ目の下線部(客席部分の収容人員100人以上)について、従来、客整数は以下のように定められていました。
建築基準法による建築確認、消防法上の防火設備の設置基準との関係で施設ごとに定められている収容定員で客席部分に係る数値をいう。客席数は、原則として固定された座席の数をいう。
これまでの規定では、ライブハウスやCDショップでのイベントが「定員100人に満たない」と見なされることが多く、そのため「椅子を100席配置した写真を提出する」といった要求が一般的でした。
しかし、2023年の改正により、立ち見(スタンディング)でも100人を収容できれば条件を満たすとされ、小規模なライブイベントを開催しやすくなりました。
また、規定の「15日」が「30日」に延長された点も重要です。これにより、以前は日本全国を回るツアーで15日を超える日程を組むのが難しく、断念したり、一度出国して再度入国する手間がかかっていたりしましたが、30日までの日程が組めるようになり、ツアーの計画がしやすくなっています。
興行ビザ「基準1号ハ」
上記の「イ」「ロ」に当てはまらない場合に該当します。
まず、申請人である外国人アーティストの活動について、以下のいずれかに該当している必要があります(1日の報酬が500万円以上である場合を除く)。
- 外国の教育機関で2年以上該当する活動の科目を専攻していた
- 外国で2年以上の経験がある
次に、外国人アーティストを呼びよせる招へい機関が、以下のすべてに該当していなければなりません。
- 外国人に対し、20万円以上の報酬を支払う契約を締結している
- 外国人の興行に関する業務について通算して3年以上の経験がある経営者・管理者がいる
- 5名以上の職員を常勤で雇用している
- その機関の経営者や常勤の職員のいずれもが、人身取引を行っておらず、売春防止法等の罪により慶に処されていない、暴力団員でない等
そして、申請人である外国人アーティストの活動を行う施設が、以下のすべてに該当していることも条件の一つです。
- 不特定かつ多数の客を対象として外国人の興行を行う施設である
- 接客・飲食をともなう店(風俗営業1号)の場合、次のいずれにも該当している
・専ら客の接待に従事する従業員が5名以上いる
・興行ビザで活動する外国人が接待するおそれのない - 13㎡以上の舞台がある
- 9㎡以上の出演者用の控室がある(演者が5名を超える場合、人数の1名につき1.6㎡を加えた面積)
- 施設の従業員の数が5名以上である
- その施設の経営者や常勤の職員のいずれもが、人身取引を行っておらず、売春防止法等の罪により慶に処されていない、暴力団員でない等
興行ビザの申請から取得するまでの流れ
外国人を日本に招へいして興行ビザを取得するまでの基本的な手順は、以下のとおりです。
ステップ | 補足 |
---|---|
①事前準備 | まず主催者や招へい機関を決定し、開催する施設を選びます。その後、来日のスケジュールや滞在場所を確保し、活動予定表を作成します。また、出演契約を結び、活動期間や報酬についても合意を得ておきます。 |
②申請書類の準備と作成 | 次に、申請に必要な書類をカテゴリーごとに集め、それらをもとに申請書類を作成します。 |
③在留資格認定証明書の申請 | 集めた書類を持って、招へい機関の所在地を管轄する地方出入国在留管理局に在留資格認定証明書(COE)の交付を申請します。申請は招へい機関の職員が行い、必要に応じて追加資料を提出します。 |
④申請結果の通知 | 申請から約1ヶ月から3ヶ月後、招へい機関に在留資格認定証明書(COE)が届きます。これを海外にいる申請者に送ります。 |
⑤ 査証(ビザ)の申請 | 申請者本人が現地の日本大使館または領事館にてビザを申請します。申請には、在留資格認定証明書(COE)の原本が必要です。通常、申請から約5営業日でビザが発給され、パスポートにビザが貼付されます。ビザが発給されたパスポートと在留資格認定証明書(COE)を持って日本に出発します。 |
⑥来日 | 日本に到着し、上陸審査を経た後、在留カードが交付されます。 |
興行ビザの申請・取得を検討する際の注意点
興行ビザの申請・取得を検討する際に知っておきたい代表的な注意点をまとめました。
興行ビザを取得せずに興行や芸能活動を行うことは禁止
もしもビザ免除国(韓国、北米、ヨーロッパなど)から観光目的として短期滞在ビザで入国し、興行ビザを取得せずに興行や芸能活動を行おうとすれば、空港での入国が許可されず、予定していたイベントが急遽中止になる可能性があります。
さらに、滞在中にその活動が発覚した場合、その外国人は不法就労とみなされ、招へいした企業は不法就労を助長したとして罰則を受ける危険性があります。また、よく誤解されるのは、報酬が設定されていないイベントや、無料で参加できるイベントであっても、プロフェッショナルとして活動し、公衆の前でパフォーマンスを行う場合には、興行ビザが必要だという点です。これは現在の出入国在留管理庁の見解に基づいています。
招へい(受入)機関をはっきりさせておく
興行の契約には、多くの企業(例:A社、B社、C社など)が関わることが一般的で、場合によっては在留資格の申請をA社が担当するなど、役割が分担されていることがあります。
しかし、招へい(受入)機関として外国人の在留資格の申請を行う場合、申請者の入国から出国までのスケジュール管理や労務管理も、原則としてその機関が責任を持つ必要があります。この点は、審査の過程で確認されることが多いです。
興行に関連する契約書は、申請時に地方出入国管理局に提出されますが、審査中に前述の問題が指摘された場合、契約内容や役割分担について関係者間で再調整が必要になることがあり、これが審査の長期化につながることもあります。
そのため、興行に関する契約内容が申請に適切であるかどうか、事前に専門家に相談して確認することが重要です。
興行に関する契約の内容を明確に定めておく
興行ビザを申請する際には、申請者との契約はもちろんのこと、興行に関わる全ての関係者との契約を文書で締結し、それぞれの役割や関係性を明確にした上で、地方出入国管理局に申請を行う必要があります。
そのため、入国予定日から逆算して、少なくとも入国の2~3ヶ月前までには、関係各所との契約を完了し、申請書類を提出できるように準備を整えることが重要です。
興行ビザについてよくある質問
最後に、興行ビザの申請を検討している方からよく頂戴する質問と回答をまとめました。
興行ビザの申請に必要な書類は?
興行ビザの申請に必要な書類は、法務省の案内をパッと見ただけでは何が必要なのかとてもわかりにくくなっています。申請する興行ビザの種類によって必要書類は異なりますので、注意しましょう。
ここでは、興行ビザの申請に必要となる基本的な書類を紹介します。
- 在留資格認定証明書交付申請書:1通
- 写真(縦4cm×横3cm):1葉
- 返信用封筒:1通
- 申請人の経歴書及び活動に係る経歴を証する文書:適宜
- 招へい機関に関する以下の資料
・登記事項証明書:1通
・直近の決算書(損益計算書,貸借対照表など)の写し:1通
・その他招へい機関の概要を明らかにする資料:適宜
・従業員名簿:1通 - 興行を行う施設の概要を明らかにする以下の資料
・営業許可書の写し:1通
・施設の図面(間取りなどが記載されているもの):1通
・施設の写真(客席,控室,外観など):適宜 - 興行に係る契約書の写し:1通
- 申請人の日本での具体的な活動の内容、期間、地位及び報酬を証する文書:1通
- その他参考となる資料:適宜
興行ビザ申請の審査期間はどれくらいかかる?
通常、興行ビザの審査には1~3ヶ月ほどの期間がかかります。ただし、日本での興行活動の日程が事前に確定している場合、そのスケジュールを考慮して審査が進められることもあります。
さらに、招へいする機関に実績や経験が豊富であれば、審査期間が短縮される傾向があります。一方で、ビザ申請時に提出書類の不備や、施設や報酬に関する要件を満たしていない場合には、審査が長引く可能性があります。そのため、活動日程に遅れが出ないよう、必要な書類をしっかりと準備することが重要です。
興行ビザの取得にアーティストの経歴は関係する?
興行ビザを取得するためには、アーティストの経歴や活動のレベルが重要な要素となります。国際的に高い評価を受けている、または専門的な技能を持つアーティストは、興行ビザの取得が比較的容易です。例えば、国際的な賞を受賞しているアーティストや、長年にわたり専門的な活動を続けているアーティストは、興行ビザを取得できる可能性が高まります。
一方で、現地である程度の知名度はあるものの、大きな受賞歴がない場合は、そのアーティストとしての経歴に関する証拠を提出することが重要なポイントとなります。
日本に呼び寄せるアーティストが興行ビザの対象となるかどうかは、そのアーティストがどれほどのキャリアを持ち、どのような実績があるかによって判断されます。申請時には、活動期間や過去の受賞歴などを示す写真や具体的な資料を添付することが求められます。明確な基準は公表されていませんが、素人レベルでは難しく、母国で正式にアーティストとして認められていることが求められます。
終わりに
日本のライブハウスでの演奏を夢見る海外アーティストにとって、興行ビザの取得は重要なステップです。正確な情報と適切な準備を持って申請手続きを進めることで、日本でのパフォーマンス成功につなげられるでしょう。
アーティスト自身やその招へい機関、イベントを開催する施設がチーム一丸となって万全な準備を行うことで、日本での音楽活動をさらに広げ、多くのファンとの素晴らしい時間の共有を目指してください。
しらき行政書士事務所では、興行ビザの申請手続きに関して、初回相談無料で対応しております。
対面での面談がご心配な方や、遠方で直接お会いすることが難しい方、受付時間内にお時間が取れない方にも、お気軽にご相談頂けるように各種オンラインツール(ZOOM、LINE、WeChat、Skypeなど)を利用しての面談にも対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。