家族滞在ビザは、配偶者や親の扶養を前提とした在留資格であり、原則として就労は認められていません(※資格外活動の許可を得れば、週28時間以内のアルバイトは可能です)。しかし、「もっと長く働きたい」「正社員として働きたい」といった希望を持つ人が多く、就労ビザへの変更を希望するケースが増えています。
本記事では、家族滞在ビザから就労ビザへ切り替える際の条件や方法、注意点をわかりやすく解説していきます。在留資格の申請手続きに詳しい行政書士が、初めての申請でも迷わないよう、手続きの流れや成功のポイントを丁寧にご紹介します。
目次
家族滞在ビザから就労ビザへの切り替えは可能
結論から言うと、家族滞在ビザから就労ビザへの切り替えは可能です。ただし、誰でも自由に変更できるわけではなく、一定の条件を満たし、正しい手続きを行うことが前提となります。
家族滞在ビザは、本来「扶養される側」として日本に滞在するための在留資格です。そのため、就労は原則として認められていません。
しかし、本人に学歴や職歴などの就労ビザに必要な条件が整っており、日本国内の企業との雇用契約がある場合は、「在留資格変更許可申請」を通じて、就労ビザへ切り替えることが可能です。
就労ビザにはさまざまな種類があり、例えば「技術・人文知識・国際業務」はデスクワーク系や技術職、国際業務を手掛ける方向け、「特定技能」は特定の業種における即戦力人材向けの制度です。切り替えを成功させるには、自分のスキルや職務内容に合った在留資格を選ぶことが大切です。
家族滞在ビザから就労ビザへの切り替えケースと条件
家族滞在ビザから切り替えが検討される就労ビザは、主に以下のとおりです。
- 技術・人文知識・国際業務ビザ
- 技能ビザ
- 経営管理ビザ
- 特定活動ビザ46号
- 特定技能ビザ
- 高度専門職ビザ
これら6つの就労ビザに見られる主な特徴を順番に解説します。
技術・人文知識・国際業務ビザ
「技術・人文知識・国際業務」ビザは、日本で専門的な知識やスキルを活かして働く外国人向けの代表的な就労ビザです。対象となる職種は幅広く、ITエンジニアや設計技術者、通訳・翻訳者、デザイナー、マーケティング担当者のほか、日本語や外国語の教師も含まれます。
このビザを取得するには、原則として大学卒業以上の学歴、または関連分野での一定年数の実務経験が必要です。たとえば、「技術」分野では工学・理学系の職種が該当し、「人文知識」には法学・経済学などの文系専門職、「国際業務」では翻訳や通訳、海外マーケティング業務などが該当します。
申請にあたっては、学歴や職務経験を証明する書類のほか、雇用先が日本人と同等以上の報酬を支払うことも条件とされており、職務内容を詳しく記載した資料の提出が求められます。
参考:出入国在留管理庁「在留資格「技術・人文知識・国際業務」
技能ビザ
技能ビザは、料理人やスポーツ指導者(コーチ)、伝統工芸の職人など、特定の専門技能を持つ外国人が日本で働くために必要な在留資格です。対象となる職種は、一般的に高度な技術や熟練の技能が求められる分野に限られています。
このビザを取得するには、通常10年以上の実務経験が必要ですが、例えばタイ料理の料理人は5年以上の経験で申請できるという特例もあります。
申請の際には、雇用契約書や職務内容の詳細が記された書類、過去の職歴を証明する在職証明書、必要に応じて専門学校の卒業証明書などの提出が求められます。また、報酬についても、日本人と同等以上の水準であることが条件となります。
経営管理ビザ
経営管理ビザは、日本国内で事業を立ち上げたり、企業の運営に携わったりする外国人向けの在留資格です。このビザは、日本経済の活性化や海外からの投資を促進する目的で設けられています。
このビザを申請する場合、申請者が「経営者」として活動するのか、それとも「管理者」として勤務するのかによって必要な条件が異なります。
経営者として申請する場合(1年以上の在留期間を希望するケース)、「日本国内に事業所がある、または使用予定の施設が存在すること」に加えて、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。
- 常勤の日本在住社員が2名以上いること
- 資本金または出資総額が500万円以上あること
- 上記に準ずる事業規模であること
かつては外国からの出資が求められていましたが、現在はその条件は撤廃されています。ただし、実際の申請では一定の準備と要件の充足が求められるため、ハードルは依然として高いといえます。
一方で、管理者として申請する場合、事業運営に関する3年以上の実務経験があり、日本人と同等以上の報酬を受け取ることが条件です。
特定活動ビザ46号
特定活動ビザ46号は、日本の大学や大学院などを卒業した外国人留学生が、日本での就職活動を行うために設けられた在留資格です。これは、優秀な留学生が日本でそのまま就職できるようサポートする制度として位置づけられています。
申請には以下のような要件を満たす必要があります。
- 日本の大学、大学院、または一定の専門学校を卒業していること
- 高い日本語能力を有すること(日本語能力試験N1、またはBJTビジネス日本語能力テスト480点以上)
- 常勤(フルタイム)として雇用される予定があること
- 給与水準が日本人と同等以上であること
なお、従来の「技術・人文知識・国際業務ビザ」と異なり、学んだ専攻と職種の直接的な関連性についてはやや柔軟に判断されます。
このビザは、日本で学んだ知識やスキルを生かして働きたい留学生にとって、大きなチャンスとなる制度です。
参考:出入国在留管理庁「留学生の就職支援に係る「特定活動」(本邦大学等卒業者)についてのガイドライン」
特定技能ビザ
「特定技能」とは、2019年4月に創設された、日本国内で人手不足が深刻とされている特定産業分野(16分野)において、即戦力となる外国人材の就労が可能になった在留資格です。
在留資格「特定技能」には、「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類があり、1号は16分野(旧12分野)、2号は介護分野を除く11分野が指定されています。「特定技能」は特別な育成などを受けなくても即戦力として一定の業務をこなせる水準であることが求められます。
対象の分野は以下のとおりです。
- 介護
- ビルクリーニング
- 工業製品製造業(2022年に3分野統合)
- 建設業
- 造船・舶用工業
- 自動車整備
- 航空
- 宿泊
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
- 自動車運送業
- 鉄道
- 林業
- 木材産業
基本的には試験の合格が取得の要件で、学歴は不要です。試験は分野ごとに異なります。
高度専門職ビザ
高度専門職ビザは、高度な専門性やスキルを持つ外国人材を積極的に受け入れるために設けられた在留資格です。
日本の経済発展に貢献できる優秀な人材を呼び込むことを目的としており、世界的な人材獲得競争の中で、日本の競争力を高める重要な制度と位置づけられています。
このビザには「高度専門職1号」と「高度専門職2号」の2つの区分があります。
【高度専門職1号】
- 対象:高度学術研究活動、高度専門・技術活動、高度経営・管理活動
- 在留期間:5年
- 主な特典:複合的な在留活動の許可、在留期間の更新回数制限なし、永住許可申請の要件緩和
【高度専門職2号】
- 要件:高度専門職1号で3年以上活動していること
- 在留期間:無期限特典:高度専門職1号の特典に加え、在留期間が無期限になる
高度専門職ビザを取るためには、主に以下3つの要件を満たす必要があります。高度専門職ポイントが70以上あれば確実にビザを取れると誤解している方も多いので、正確に要件をチェックしておきましょう。
要件 |
詳細 |
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高度専門職ポイントが70点以上であること |
法務省が定めるポイント表に基づき、学歴・職歴・年収・日本語力などを総合的に評価し、70点以上であることが必要です。申請者は自分の職種が「イ(高度学術研究活動)」「ロ(高度専門・技術活動)」「ハ(高度経営・管理活動)」のどれに該当するかを確認しましょう。 |
仕事内容が高度人材としての活動であること |
下記のいずれかの仕事をすることが必要です。これ以外の仕事をしている場合、高度専門職ビザは取得できません。
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年収300万円以上であること |
海外から人材を呼び寄せる場合は「年収見込証明書」での申請が可能ですが、すでに日本に在住している場合は、過去数年分の年収実績が審査対象となります。転職などで年収が上がる見込みがある場合は、個別判断されることもあります。 |
参考:出入国在留管理庁「在留資格「高度専門職」(高度人材ポイント制)」
参考:法務省「ポイント計算表」
家族滞在ビザから就労ビザへの切り替えに必要な書類
家族滞在ビザから就労ビザへ変更する際には、さまざまな書類の提出が求められます。基本的な提出書類としては、「在留資格変更許可申請書」「パスポート」「在留カード」「顔写真」などが必要です。
加えて、内定先や勤務先からは「雇用契約書」「会社の登記事項証明書」「決算書」「源泉徴収税額の法定調書合計票」などの提出が求められるケースも多く見られます。また、申請者自身の「学歴証明書」や「職歴を証明する書類」も必要です。
特に経営管理ビザへの切り替えを希望する場合には、事業内容に応じた許認可証の提出が必要となることもあります。これらの書類を不備なく揃え、正確に提出することが、スムーズな在留資格変更のための重要なポイントです。
家族滞在ビザから就労ビザに切り替える際の注意点
在留資格の変更を行う際には、いくつか注意すべきポイントがあります。まず最も大切なのは、現在の在留期間が満了する前に、十分な余裕を持って申請を行うことです。申請がギリギリになると、不備があった場合に間に合わなくなるリスクがあります。
また、提出書類に不備や漏れがあると、審査に時間がかかる可能性が高くなるため、書類の準備は丁寧かつ正確に行うことが重要です。あわせて、勤務先となる企業がビザ申請に関するサポート体制を整えているかどうかも、事前に確認しておくと安心です。
ビザの審査には時間がかかることもあるため、申請のタイミングには余裕を持ち、可能であれば地方出入国在留管理局(入管)に事前相談することをおすすめします。
家族滞在ビザから就労ビザへの切り替え事例
家族滞在ビザから就労ビザへ変更する際には、さまざまなケースがあります。成功した例からは、スムーズな申請のための具体的な準備や手続きのポイントを学ぶことができ、逆に失敗した例からは注意すべき点や見落としがちなリスクへの対策が見えてきます。
それぞれの事例を通じて、自分の状況に合った最適な進め方を見つけることができるでしょう。以下では、よくある成功パターンと失敗例を取り上げ、それぞれから得られる教訓や、ビザ切り替えを成功に導くためのポイントをわかりやすくご紹介します。ぜひ参考になさってください。
成功事例
技術職に就く妻が、家族滞在ビザから「技術・人文知識・国際業務ビザ」へ変更した成功事例があります。このケースでは、雇用先が早期に決まり、必要書類の準備もスムーズに進みました。さらに、企業側が申請に関する十分なサポートを提供し、職務内容がビザの要件に適合していることを明確に説明できた点がポイントです。
また、事前に入管へ相談し、書類の不備がないよう徹底的に確認を行ったことも、許可を得るうえで大きな要因となりました。その結果、手続きは滞りなく進み、新たな就労ビザで日本でのキャリアを問題なくスタートできました。こうした事前準備と丁寧な対応が、成功へのカギとなります。
失敗事例
ビザ切り替えに失敗した事例として、申請書類の不備が原因で不許可となったケースがあります。このケースでは、申請者が必要な学歴や職歴を証明する書類を揃えられなかったことに加え、雇用先の賃金が最低賃金を下回っていたことなど、労働条件に問題がありました。
このようなトラブルを防ぐためには、申請前に必要書類の内容や形式をしっかり確認することが欠かせません。また、雇用先とこまめに連絡を取り、雇用条件や業務内容について正確に把握しておくことも重要です。さらに、専門家に相談したり、あらかじめ入国管理局に助言を求めたりすることで、安心して手続きを進めることができます。
終わりに
就労ビザへの切り替えは、単に「働きたい」という思いだけでは許可されません。学歴・職歴・雇用契約内容・職種との関連性など、入管が定める明確な審査基準があります。また、就労ビザの種類によって条件や許可される職種が異なるため、自分の希望する働き方に合った在留資格を見極める必要があります。
「家族滞在ビザから就労ビザへの切り替え」は、日本で長く働きたいと考える方にとって大きなステップです。制度への理解と正確な準備をもって行動すれば、希望する働き方を実現することができます。
必要に応じて行政書士など在留資格の申請手続きに詳しい専門家に相談することも、安心して手続きを進めるための有効な方法です。
しらき行政書士事務所では、家族滞在ビザから就労ビザへの切り替え手続きに関して、初回相談無料で対応しております。
対面での面談がご心配な方や、遠方で直接お会いすることが難しい方、受付時間内にお時間が取れない方にも、お気軽にご相談頂けるように各種オンラインツール(ZOOM、LINE、WeChat、Skypeなど)を利用しての面談にも対応しております。
これまでの経験と実績を生かし、在留資格の申請手続きの成功をサポートいたしますので、お気軽にお問い合わせください。