法務省は、出入国管理及び難民認定法の一部を改正し、2024年4月1日から「デジタルノマドビザ」の制度を開始しました(3月29日付けで告示、4月1日から施行)。
このビザの対象者は、外国の法人あるいは団体との雇用契約に基づき、日本で情報通信技術を用いて業務に従事する外国人です。出入国在留管理庁では、リモートワークを行うIT/ソフトウェア開発者、デジタルデザイナー、オンライン秘書、外国企業の事業経営を行う個人事業主などを想定しています。
本記事では、ビザ申請に詳しい行政書士が、デジタルノマドビザの概要、在留期間、対象となる活動、申請に必要な書類について分かりやすく解説します。
目次
そもそもデジタルノマドとは
まず、デジタルノマドの定義を確認しておきましょう。
デジタルノマドとは、インターネット関連の仕事をしながら旅をしている人々を指す言葉です。「ノマド」とは遊牧民を意味し、オフィスに縛られない働き方を示しています。
例えば、Webライターやコンテンツマーケティングの仕事をしながら各国を旅している場合は、デジタルノマドといえます。
ただし、現在ではPCを使用せずに仕事をするケースはほとんどなく、ノマドとして働くためにはインターネットの利用が必須です。そのため、「ノマド」と呼ばれることが一般的です。旅をしているかどうかが、デジタルノマドの特徴となります。
該当する職業例
デジタルノマドとして働くためには、どのような職業が適しているのか、具体的な職業例を以下に紹介します。
- IT・テクノロジー関連職
・ソフトウェア開発者
・Webデザイナー - クリエイティブ職
・コンテンツライター
・グラフィックデザイナー - マーケティング・セールス職
・デジタルマーケター
・Eコマーススペシャリスト - コンサルティング・教育職
・ビジネスコンサルタント
・オンライン教師・コーチ
パソコンとインターネット環境が整っていれば可能なデジタルノマドは、プログラマーやSE、WebデザイナーといったIT関連の職種をはじめ、ライターや編集者、翻訳家などが向いています。そのほか、旅行という特徴を生かせる写真家やトラベルブロガーなども増えています。
日本版「デジタルノマドビザ」の概要
日本版「デジタルノマドビザ」は、正式名称を、在留資格「特定活動」(デジタルノマド(国際的なリモートワーク等を目的として本邦に滞在する者)及びその配偶者・子)とするものです。
近年外国人旅行者に人気の日本においても、2024年4月からデジタルノマドビザを発給しています。安定した収入を得ながら長期滞在する外国人を対象(現在は50か国)としています。
デジタルノマドビザを取得することで、日本で6カ月を超えない期間滞在しながらリモートワークをすることが可能になります。出入国在留管理庁は、リモートワークを行う「IT/ソフトウェア開発者、デジタルデザイナー、オンライン秘書、外国企業の事業経営を行う個人事業主」を具体例として挙げています。
外国の会社に雇用されている方や、外国の会社から仕事を受けている個人事業主もこのデジタルノマドビザの対象となります。
※日本の会社から仕事を受けている個人事業主は「技術・人文知識・国際業務」、いわゆる就労ビザが必要です。また、デジタルノマドビザの許可を得た方の家族(配偶者と子ども)も同じビザで日本に滞在することができます。
デジタルノマドビザの在留期間と活動・対象
デジタルノマドビザの取得によって日本に滞在できる期間は6か月間で、他の国のデジタルノマドビザと比較して滞在期間が短めです。また、滞在期間を延長することはできません。
デジタルノマドビザの在留資格に該当する活動は以下のとおりです。
- 外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体との雇用契約に基づいて、本邦において情報通信技術を用いて当該団体の外国にある事業所における業務に従事する活動
- 外国にある者に対し、情報通信技術を用いて役務を有償で提供し、若しくは物品等を販売等する活動
※ 活動内容について、日本に入国しなければ提供または販売等できないものを除く
※ 資格外活動許可は原則として認められないほか、また日本の公私の機関との雇用契約等に基づく就労活動はできません。
下表に、対象者の国籍・地域をまとめました。
特定活動53号(デジタルノマド)
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特定活動54号(デジタルノマドの扶養する配偶者・子)
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デジタルノマドビザの条件
在留資格「特定活動」(デジタルノマド(国際的なリモートワーク等を目的として本邦に滞在する者)及びその配偶者・子)の取得条件は、日本にビザなしで入国できる国・地域の国籍を持ち、年収が1000万円以上の外国人です。
年収の証明には、申請者が就労した国・地域で発行された納税証明書または所得証明書などの書類の提出が必要です。
対象となる国・地域は、米国、オーストラリア、ドイツ、フランス、韓国、香港、台湾など約50カ国・地域で、これらの国・地域によっては配偶者や子供の帯同も認められています。また、傷害疾病への治療費用補償額が1,000万円以上の民間医療保険への加入も義務付けられています。
デジタルノマドビザ申請に必要な書類
デジタルノマドビザの申請に必要な書類は、以下のとおりです。
- 査証申請書(写真貼付)
- 旅券
- 在留資格認定証明書(在留資格認定証明書の提示がある場合、以下(4)~(6)は省略可能)
- 申請人の滞在中の活動予定・滞在期間を説明する資料(様式(Word))
- 申請人個人の年収が1,000万円以上であることを証する書類
a. 納税証明書、所得証明書、雇用契約書、取引先との契約書(契約期間及び契約金額が明記されているもの等 - 本邦滞在中の死亡、負傷、疾病に対応した保険(傷害疾病への治療費用補償額は1,000万円以上)に加入していることを証する書類
a. 加入証書及び約款の写し、クレジットカードの写し並びに付帯補償を立証する書類等
続いて、デジタルノマドの配偶者又は子の申請に必要な書類を以下にまとめました。
- 査証申請書(写真貼付)
- 旅券
- 在留資格認定証明書(在留資格認定証明書の提示がある場合は、以下(4)~(5)は省略可能)
- 申請人の滞在中の活動予定と滞在期間を説明する資料(様式(Word))
- 本邦滞在中の死亡、負傷、疾病に対応した保険(傷害疾病への治療費用補償額は1,000万円以上)に加入していることを証する書類
a. 加入証書及び約款の写し、クレジットカードの写し並びに付帯補償を立証する書類(扶養者(デジタルノマド)が有する保険における家族補償による場合はその補償範囲等が確認できる資料) - 申請人と扶養者(デジタルノマド)の身分関係を証する書類
- 扶養者(デジタルノマド)の旅券の写し
外国人デジタルノマドが日本を選ぶ理由と課題
デジタルノマドビザの申請について相談をいただく外国人のほとんどが、すでに訪日経験のある人々です。彼らが日本でデジタルノマドビザの申請を選んだ理由として多く聞かれるのは、「訪日中に日本が気に入った。多くの国を訪れたが、日本は安全でインフラが整っており、さまざまな観光も楽しめる」というものです。
しかし、滞在期間が「6カ月」であることに対しては短いと感じている人が多いようです。デジタルノマドビザの延長は認められておらず、6カ月以上滞在したい場合は、期限が切れる前に再度申請し、一旦日本を離れてから再入国する必要があります。
この6カ月という期間は、滞在場所の問題も浮き彫りにしています。長期賃貸には中途半端な期間であり、ホテル滞在にはコストがかかります。例えば、デジタルノマドビザを申請したアメリカ人男性Aさんは都内に住むことを希望していますが、「一般的な賃貸物件の契約は難しいので、エアビーや民泊などを利用することになりそうだ」と話していました。
終わりに
当事務所で実際に申請をした案件やデジタルノマドビザについて受けた相談によると、すべての申請者がこれまでに日本を訪れた経験があり、日本の安全性や生活のしやすさ、観光の魅力から長期滞在を希望しています。しかし、6カ月しか滞在できないことに対して不満を感じているようです。
日本政府もデジタルノマドを積極的に誘致するためにこの制度を早期に閣議決定しました。法務大臣は、「さまざまな情報を集めて改善点を見つけ出し、観光だけでなく国内のスタートアップの成長や経済政策、産業政策全般にも寄与するようにしたい。法務省としてもこの問題にフォーカスし、問題意識を持って対応していく」と述べています。
このため、年収の高い外国人デジタルノマドを積極的に誘致し、スタートアップや経済、産業の成長を期待する声が高まっています。これに伴い、更新可能な長期在留を求める声も増えてくるのではないでしょうか。
住居の問題もあり、在留カードが発行されないことと、6カ月の在留期間では長期賃貸の契約が難しく、ホテル滞在にはコストがかかります。当事務所としては、始まったばかりの日本版「デジタルノマドビザ」の今後の動向を見守りたいと考えています。